無限の空間/銀座
トーゴー:シルクランド画廊の酒井氏は非常に丁寧に解説してくれたね。
ハロルド:いい人やったなぁ。鑑賞していておもしろかったもん。
トーゴー:銀座で、上海の作家を扱っている所は、あのギャラリーだけでしょう。
そういった意味で、注目されるね。
ハロルド:上海から、世界へ羽ばたくアーティスト達やな。
トーゴー:おぉ、後藤純男氏じゃん! ここ、市場画廊だぞ。
ちょっと、入ってみよう。
ハロルド:いわゆる、大先生やね。
トーゴー:まぁ、大家と呼ばれるには何か秘密があるはず。
その辺りを感じようよ。
ハロルド:じゃあ、勉強のために・・・。
トーゴー:織田廣喜氏の作品。4号、45万円。1号あたり10万ちょいか・・・。
いわゆる銀座での相場かな。
ハロルド:まず、号数で評価額を決めるのはナンセンス。
作品そのもので価値を計らんとイカン! 根本的に間違ってんな。
トーゴー:悲しいかな、日本の美術市場の現状はこうなのよ。
ハロルド:2階があるで・・・。
トーゴー:こうゆう所は大抵、2階の方が良い作品飾ってるものなのよ。
ハロルド:ふ〜ん。おぉ、大山忠作氏の作品や!
この作品は鯉やな。まるで、生きているかのように鮮やかや。実に優美で美しい!
トーゴー:日展では、氏の事、あんまり評価してなかったじゃん。
っていうか、存在すら知らなっかたみたいだし・・・。
大山忠作氏は鯉を描くのが得意だしな。
ハロルド:日展では素通りしかけた。しかし、売り絵は、また違うな。
逆に、ここにある高山辰雄氏は今イチやなぁ〜。
トーゴー:なんか、高山辰雄氏の仕事についても語りだしたぞ・・・。
氏は玄人好みで、売り絵には向いていない。でも逆にこういった画廊としては、扱いたい作家。通は、欲しがるじゃん。
ハロルド:東山魁夷氏の作品も、う〜ん・・・。
トーゴー:確かにこの辺りの大家クラスになると、
良い作品はなかなか市場へ出回らない。
ハロルド:この作品はいいやん!「雪の渓」加山又造氏。
トーゴー:ほんとだ! 昭和51年制作だから、ちょうど、加山が良い仕事をしていた頃の作品だね。
ハロルド:雪景の無限空間へと誘う、実に詩的な作品やね。
小さな画面から、スピリチャルな何かを感じる。
トーゴー:加山の話、長くなっていいか?
ハロルド:なんやねん?
トーゴー:加山は別格。とにかく別格なんだよ!
加山の出現は当時、きわめて鮮烈だった。
常に新しい日本画というものに挑戦し続けた日本画壇における革新の旗手。
加山は、俺達と同じ京都生まれで、父は西陣織の衣装図案を生業とし、祖父も田辺玉田と号する、四条派と京狩野派を学んだ絵師だったという。
西陣の職人たちの間に混じって、いつも何かを描いていた少年期。
絵は物心つく頃から描いていたものだと、のちに加山自身が回想している。
当然のように、絵の成績は優秀で将来画家になる事を志した。
だが、意外にも、加山の父は猛反対したという。
なぜ、猛反対したのか?
画家として生計を立てることがいかに難しいものであるか、また、生涯を通じて創作を続けなければならない、創造者の日常がいかに険しい道か、それは、自分の経験上、親心ゆえの説得だったのだ。
しかし、加山の決意は固かった。氏は京都市立美術工芸学校に進む。
ここは、明治13年に創設された京都府画学校の後進で、当時は京都日本画の伝統を守るとともに、東京画壇に対抗する意味も帯びていた。
当時、同校の卒業生は京都市絵画専門学校入学の特典があり、在校生のほぼ全員が、この上級校へと進んだ。
だが、加山は違う道を選ぶ。
直感的に、京都画壇の人間関係の中で身動きがとれなくなるのを察知したのだ。
加山は京都から、男一匹、東京美術学校日本画科に進む決意をする。
ただ、誤解しないでほしい。加山は京都画壇は避けたが、スピリットは京都なのだ。加山の生み出す作品の根底に流れるのは京都が長い時間をかけて育んだ美意識だ。加山にとって伝統とは京都なのだ。
このことは、京都で生まれ、京都に育ち、その上で、京都と距離をおいて暮らすものしかわからない事かもしれない。京都と距離をおく事によって、逆に見えてくるものがあるからだ。
東京へ出てきた加山をまず襲ったのは、生活苦だった。学業と生活を両立するために、アルバイトに追われる日々。
ポスター描き、ネオンサイン設計、ショウウインドウ装飾、アドバルーン制作、玩具売り、看板描き、パンフレット作りなど・・・。手当り次第に、ありとあらゆる、20種類以上の仕事を経験したのである。
しかし、「転んでもただでは起きない」とはこの事か、この雑多な経験が、加山のデザイン的感覚や表現のための、新たなテクニックを身につける事となったのだ。
すべての事を自己の栄養として吸収し、それを可能にする柔軟な感性、そして、なにより自分自身を見失う事のない強靭な精神力。
それらをバックボーンに、加山は日本画に伝統美と革新性を吹き込んでいく。まるで、魂を込めるかの如く。
加山のような大胆でいて、その上、非常に繊細な表現をする作家は今後、なかなか出てこないのではないか?
謙虚な人柄とは裏腹に、芸術家として、強い意志や、激しい闘志を燃やした作家だ。
それは、戦中戦後の混沌とした時代背景のなかで青春をおくった、ひとりの画家の骨太の軌跡なのだ。
ハロルド:長いわ!アホ! でも、俺も、思い入れするところがあったわ。
しかし、思い入れや、加山の生き様とかで、鑑賞しないで、
作品は作品として観ないと、あかんで!
俺はニュートラルな状態で、この作品に何か感じるものがあった。
ビビッと来るもんがあった!
トーゴー:この作品、1800万円らしいよ。
ハロルド:マジか! 大山忠作氏は?
トーゴー:450万円。
ハロルド:大山忠作氏は、まだ買える値段やな。いつか絶対買うぞ! 忠作!
トーゴー:上村淳之氏の作品もあるな。氏も京都画壇で、加山とは違い・・・
ハロルド:もう、ええわ! 今度にしてくれ。
それにしても、加山は京都が生んだ芸術界のスターなんやね。
京都生まれで、東京へ出てくるところなんか、なんとなく、俺達と境遇も近いし・・・。
トーゴーの思い入れは、よ〜く、わかった。
トーゴー:俺達も加山が念じた「無限の空間」という宇宙へ、旅に出よう!
そういえば、成田空港の出発ロビーも加山の「日月四季」で彩られてるな。
ハロルド:「無限の空間」それは、生命の事なのかな。
To be continued.

